大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松地方裁判所 平成7年(わ)59号 判決

本店所在地

香川県坂出市江尻町一四五二番地の二

有限会社尾崎工業所

(右代表者代表取締役 梅島一二)

本籍

香川県坂出市旭町二丁目一二〇八番地の一

住居

同町二丁目七番二九号

会社役員

梅島一二

昭和一九年一月二日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官佐賀元明、弁護人植木修一各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社尾崎工業所を罰金一八〇〇万円に、被告人梅島一二を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人梅島一二に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社有限会社尾崎工業所は、本店を香川県坂出市江尻町一四五二番地の二に置き、鉄骨加工・製缶・熔接等を目的とする資本金五〇〇万円の有限会社であり、被告人梅島一二は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人梅島は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するとともに架空の外注工賃を計上して簿外預金を蓄積するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成二年三月一日から平成三年二月二八日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四六〇八万六四三〇円であったにもかかわらず、同年四月三〇日、香川県坂出市京町二丁目六番二七号所在の坂出税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が零円でこれに対する法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額一七二八万六二〇〇円を免れ、

第二  平成三年三月一日から平成四年二月二九日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億〇九五八万七一六三円であったにもかかわらず、同年四月二八日、前記坂出税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一七四万四九八三円でこれに対する法人税額が一万七五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額三九八六万四三〇〇円と右申告税額との差額三九八四万六八〇〇円を免れ、

第三  平成四年三月一日から平成五年二月二八日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三六二五万五一五三円であったにもかかわらず、同年四月三〇日、前記坂出税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一五万九六九〇円でこれに対する法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額一二三五万五七〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告会社有限会社尾崎工業所代表者代表取締役梅島一二の当公判廷における供述

一  被告人梅島一二の当公判廷における供述

一  被告人梅島一二の検察官対する各供述調書(二通)

一  松岡一治、吉田光則及び西尾義美の検察官に対する各供述調書

一  中井美枝子の検察事務官に対する供述調書

一  検察事務官作成の各捜査報告書(六通)

一  大蔵事務官作成の売上調査書、期首棚卸高調査書、商品仕入高調査書、外注工賃調査書、期末棚卸高調査書、役員報酬調査書、役員賞与調査書、給料手当調査書、水道光熱費調査書、損金算入役員賞与調査書、損金算入県民税利子割額調査書、租税公課調査書、交際接待費調査書、通信費調査書、支払手数料調査書、支払利息調査書、事業税調査書、受取地代調査書、受取利息調査書、雑収入調査書及び脱税経費否認額調査書

判示冒頭の事実について

一  高松法務局坂出出張所登記官作成の登記簿謄本(被告会社について)

判示第一、第二の各事実について

一  大蔵事務官作成の有価証券売却益調査書及び繰越欠損金控除額調査書

判示第二、第三の各事実について

一  大蔵事務官作成の消耗品費調査書及び旅費交通費調査書

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の領置てん末書

一  押収してある有限会社尾崎工業所法人税確定申告書(H2・3・1~H3・2・28)一綴(平成七年押第一六号の1)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の領置てん末書

一  押収してある有限会社尾崎工業所法人税確定申告書(H3・3・1~H4・2・29)一綴(平成七年押第一六号の2)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の運送費調査書、退職金調査書、福利厚生費調査書、修繕費調査書、事務用品費調査書、保険料調査書及び燃料費調査書

一  大蔵事務官作成の領置てん末書

一  押収してある有限会社尾崎工業所法人税確定申告書(H4・3・1~H5・2・28)一綴(平成七年押第一六号の3)

(法令の適用)

被告会社有限会社尾崎工業所との関係では、判示各所為はいずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当することろ、情状に鑑み同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金一八〇〇万円に処することとする。

被告人梅島一二の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当することろ、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人梅島を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、売上除外・架空経費計上などの方法により法人税を免れた脱税事犯であるが、簿外預金の蓄積により企業の資金力を強化するという動機に同情の余地はなく、その態様も、下請業者を自己の犯罪に巻き込んだり、自己の生活費を会社の経費として計上するなど法人・個人の公私を混同するものであって悪質である。また、被告人らは、三年間にわたって合計約一億九〇〇二万円の所得を秘匿し、その結果、支払いを免れた税額は合計六九四八万八七〇〇円にも上り、ほ脱率も九九・九七パーセントと極めて高く、被告人らの刑事責任は重いと言わざるをえない。

他方、被告人らは、本件発覚後は修正申告をし、本税・重加算税・延滞税・地方税の各納付を済ませていること、脱税の手段も比較的単純であり巧妙とまではいえないこと、税務調査や捜査段階からこれに協力し反省の態度が認められること、被告人梅島の服役により被告会社の経営に多大な影響が出ることが予想しうることなどの事情もあるので、それらの有利・不利の情状を総合して考慮し、主文の刑を量定した次第である。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 竹野下喜彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例